第2節 日本の危機 アメリカ 1990年代
アメリカは政府要人、高官の登用にポリティカル・アポイントメント制をとっており、政権によって外交・防衛政策が違ってくる。
1981年から1992年まで続いた共和党政権での対日本政策担当の中心はジェームズ・アワー国防省日本部長であった。
ドイツ系カトリック教徒の
ジェームズ・アワー氏は、
マーケット大学在学中、予備士官訓練制度(ROTC)によって軍事訓練を受け、1963年に海軍少尉で任官、ベトナムで掃海艇に配備された後、
タフツ大学大学院フレッチャー・スクールに進学、
1970年に日本に留学した。
日本留学で「よみがえる日本海軍」を執筆、日本の海上自衛隊を評価した。
1979年に国防省日本部長に着任、日本の重要性を説き、冷戦激化の中の日米同盟強化に尽力した。
アワー氏は日本の防衛力の着実な整備と、日米同盟の強化、日本の集団自衛権行使をすすめている。
同じく、1980年代の共和党政権で、
国防省東アジア担当国防次官補をつとめ、日米関係に大きな影響力を持つ
リチャード・アーミテージ氏
(2001年から2004年までジョージ・W・ブッシュ政権で国務副長官)。
アーミテージ氏は、1967年に海軍士官学校を卒業、海軍少尉としてベトナム戦争に従軍後退役する。
直後に、海軍、中央情報庁(CIA)、アメリカ軍駐在武官本部スタッフ、民間人の身分で特殊作戦任務に従事した。
その後、国防情報庁(DIA)、ボブ・ドール上院議員事務所スタッフ、レーガン大統領選挙キャンペーン・スタッフを経て、
1981年国防省東アジア担当国防次官補に着任する。
レーガン政権の東アジアの安全保障政策は、
ヘンリー・キッシンジャー元国務長官の主張する
中国重視と、
リチャード・アーミテージ国務次官補、ジェームズ・アワー国防省日本部長らの主張する
日本重視
の考えが対立した。
キャスパー・ワインバーガー国防長官、
ジョージ・シュルツ国務長官、
ジョージ・ブッシュ副大統領らは、
アーミテージ国防次官補、アワー国防省日本部長の
日本重視の主張を採用した。
アーミテージ国防次官補は、日米同盟の強化、自衛隊の着実な整備と強化を求めたが、日本のFSX(次期支援戦闘機)計画において、日本の単独開発には反対した。その理由として、日本単独では、その技術の低さから満足な性能を得る支援戦闘機は開発できない、悪化する日米貿易摩擦を緩和するために、航空機分野はアメリカが主導するのが得策である、というものだった。
その結果、FSXはゼネラル・ダイナミクスF-16ファイティング・ファルコン戦闘機をベースに、日本とアメリカが共同開発することになった。
アーミテージ氏は日本の防衛力強化・整備、日米同盟の強化、日本の集団自衛権行使をもとめているが、
アワー氏と同様に、日本の核兵器保有には否定的で、そのまえに通常戦力の大幅な増強を求めている。
アメリカ右派の自由主義思想であるリバータリアニズムと、リバータリアニズムを代表する
シンクタンクのケイトー研究所の外交・防衛政策の責任者で、
ケイトー研究所の副所長でもあるテッド・カーペンター氏は、
日本は地上発射大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、長距離飛行可能な戦略爆撃機を保有し、核のトライアドを構築し、
日本は独自で核の抑止力を持つべきだとしている。
通常兵力では、空母を保有し、航空戦力を大幅に強化し、日本独自でシー・レーン防衛すべきであるとしている。
さらにアメリカ合衆国軍は日本から撤退し、そのうえで日本とアメリカは友好関係を築くべきとしている。
同様の立場に、ダグ・バンドウ氏がいる。
ダグ・バンドウ氏もリバータリアンで、
合衆国のアジア太平洋への介入、地域紛争への介入に否定的見解を表明している。
ニクソン大統領のスピーチライターをつとめ、
1992年の共和党大統領予備選挙のニュー・ハンプシャー州予備選挙でトップとなり、
その後は政治評論家、ポリティカル・ディスク・ジョッキーなどを正業としている
アイルランド系カトリック教徒の
パット・ブキャナン氏は、
自らを「ネオ・アイソレーショニスト」と名乗るアイソレーショニスト(鎖国主義者)である。
「アメリカ・ファースト」、
「バイ・アメリカン」
を訴え、
アメリカ企業製品の購入、アメリカ国内での生産、輸入製品への高関税付加をもとめる
経済・通商の保護主義者である。
外交・防衛政策では
海外駐留のアメリカ合衆国軍の全面撤退と、
大幅な軍縮政策を主張している。
1993年から
クリントン政権で東アジア担当国務次官補を務めていた
ジョセフ・ナイ氏(ハーバード大学ケネディ行政学大学院長)は、
1970年代後半のカーター政権では、
ズビグニュー・ブレジンスキー大統領特別補佐官とともに
日本封じ込め・弱体化
に賛同していたが、
クリントン政権では日本国憲法の枠内での極東における日米防衛協力推進を主張し、
2000年のアーミテージ・レポートでは日本国憲法改正と集団自衛権強化、日本の防衛力強化を主張するに至っている。
1977年から1980年まで
カーター大統領の特別補佐官をつとめた
コロンビア大学教授のズビグニュー・ブレジンスキー氏は、
アメリカの外交・防衛政策および世界の政治に大きな影響力を持つ。
ブレジンスキー氏は
外交論文集である「フォーリン・アフェアーズ」の1997年9/10月号に、
「ユーラシアの地政学」
という論文を発表している。
そこでは、
「とりわけ重要なのが、NATO,米国とさらには中国とのパートナーシップの形成であり、これを軸にロシア、中央アジア、日本との安定的共存を図っていかなければならない。」、
「核戦力を別とすれば、中国が自らの地域を越えてその軍事的影響力を行使する能力をもつことは当面ありえない。」、
「日本は極東における米国の不沈空母であってはならない。日本はアジアでの米国の主要パートナーであってはならない。」、
「(日本を)地域大国になろうとする試みを回避させる方向へ向かわせる。」、
「日本がグローバルな影響力を手にすることができるのは、地域大国になりたいという望みをおさえた場合だけである。」
と主張、
日本の大国化に反対し、
日米同盟も否定するなど
反日、嫌日の姿勢を強調し、
中国をNATOと同列のパートナーとする構想を主張している。
ブレジンスキー氏は
アル・ゴア民主党大統領候補、
ジョン・ケリー民主党大統領候補、
バラク・オバマ大統領
の外交顧問、外交ブレーン
として中国との関係強化を主張した。
1969年から1976年まで、
ニクソン/フォード政権において大統領補佐官や国務長官をつとめ、
ハーバード大学の教授でもあり、アメリカ政界、学界、財界のみならず、全世界に影響を行使しえる
ドイツ出身のユダヤ教徒である
ヘンリー・キッシンジャー氏。
コンドリーザ・ライス元国務長官が
親北朝鮮、
親中国
外交を推進したのもキッシンジャー氏の全面的なアドバイスに盲従したためである。
キッシンジャー氏は1997年8月25日の読売新聞「地球を読む」において、
「米中関係 共存の道探る好機」
と題し、
そこで
「少なくとも今後十年間、日本の軍備はますます恐るべきものとなろう。」
と
国際政治学者として失格の間違った見解を表明した後、
「さらに、北京の立案者たちは、インドや韓国、ロシア、ベトナム、さらに台湾の軍事能力を無視することはできない。」、
「中国にとって米国と日本の関係は、依然として懸念のもとである。」
と、
中国の立場のみを強調している。
1999年10月25日の読売新聞「地球を読む」において、
「薄れた国家独裁色」
と題し、
「インドから日本、ロシアに至るまで、軍事的に相当な隣人と向き合っている」
と
中国の軍事力を擁護している。
1999年5月10日の読売新聞「地球を読む」においては、
「軍事的挑戦をおこなったのは台湾を巡る国家統一の懸念や、南沙諸島などの伝統的な領土主張の擁護のためだった。中国の戦略能力は20基そこそこの戦略核を擁するに過ぎない。」
と主張、
中国の軍事的恫喝を支持している。
また、天安門事件では
ABCテレビ「ABCワールド・ニュース・トゥナイト・ウィズ・ピーター・ジェニングス」
において、マスター・オブ・セレモニーのピーター・ジェニングスのインタビューに対し、
キッシンジャー氏は
「私ならどのような制裁もしない。」
と語っている。
1995年7月にはワシントン・ポストで
「アメリカも中国もそれぞれ理由は異なるが、一つの覇権国家によってアジアが支配されることに反対している」
と反日的な文言を残し、
「中国はアメリカに強力な近隣諸国との関係を均衡させる手助けをして欲しいのだ。」、
「少なくとも中国が自らそれができるほど力をつけるまでは」と、
中国の将来のアジア覇権を認めている。
国家安全保障会議のアジア上級部長などを歴任した戦略国際問題研究所CSISの
マイケル・グリーン氏は、
日本の偵察衛星保有にすら反対していた。
1993年から2000年まで続いた
クリントン政権では、
ウォルター・モンデール駐日大使(1977年から1980年まで副大統領)
は、
尖閣諸島紛争にアメリカは関与しないと発言、
サンディ・バーガー国家安全保障担当大統領補佐官、
バウチャー国務省報道官
もこのことを追認した。
日本での怒りの声を考慮した
カート・キャンベル国防次官補代理は、
日本の施政権下にある尖閣諸島は日米安全保障条約によって守られると、
政府高官の前言を撤回した。
しかし、クリントン民主党政権は
中国を
「戦略的パートナーシップ」
と位置づけ、中国を重視していた。
ジョージ・W・ブッシュ共和党政権は当初、
中国を
「戦略的競争相手」
と位置づけ、中国を警戒した。
しかしコリン・パウエル国務長官の後継となる
コンドリーザ・ライス国務長官は
北朝鮮をテロ支援国家から解除し北朝鮮を助け、
中国にも融和、譲歩し続けた。
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